
三角比の定義の式の本質を理解するための解説を書きました。
三角比の定義は、相似な直角三角形同士で無関係に式の値が定まることが重要ポイントです。
三角比の定義とは
三角比の定義の公式の確認
三角比の定義を確認しておきます。
直角三角形ABCの角度の三角比(3つ)とは、次の数式で定まる値のことです。(角 $C$ が直角とする。)
- $\displaystyle \sin A = \frac{c}{a}$
- $\displaystyle \cos A = \frac{c}{b}$
- $\displaystyle \tan A = \frac{b}{a}$

それぞれの角に対応する辺の長さを $a$, $b$, $c$ として、三角比の定義の数式に代入することでそれぞれの三角比の値を定めることができます。
三角比の定義の疑問❓
定義の解説は以上ですが、何も疑問に感じないでしょうか?
これから話を簡単にするために、$\tan 60^{\circ}$ で説明します。(tan が最も存在感が薄いみたいですので。)サインとコサインについても話は同じです。
定義式の計算手順を整理しましょう。
- 指定された角度を左側、直角を右側にして、直角三角形を置く。
- 辺の長さを2つ選び、分母(底辺の長さ)と分子(高さの長さ)に置く。
- そして、角度 $A$ の前に、$\tan$ の記号を付ける。
この3つの手順に疑問を持って欲しい箇所はありません。手順以前のところに疑問を抱いて欲しいです!
どんな直角三角形を考えましたか?
例えば、$\tan 60^{\circ}$ を求める場合、$A=60^{\circ}$, $C=90^{\circ}$ ( $B=30^{\circ}$ )の直角三角形を考えます。しかし、この条件を満たす直角三角形は沢山あります。相似な三角形の分だけ沢山あります。
抱いてほしい疑問とは、次の疑問です。
大きさの違う他の相似な直角三角形で三角比を計算すると、$\tan 60^{\circ}$ が違う値になってしまうのではないか?
三角比の定義の本質
疑問に答える形で、三角比の定義の本質を解説します。
相似な三角形の復習
相似の定義を確認しましょう。
三角形に限らず、2つの図形が相似な関係であるとは、一方の図形を拡大もしくは縮小することで合同な関係になることです。
相似とは「大きさが違うだけで形が一緒」ということですね。
ここから図形を三角形に限定します。中学校のときに、2つの三角形が相似であるための相似条件を習いました。覚えていますか?
- 3組の辺の長さの比が全て等しい。
- 2組の辺の長さの比と、その間の角の大きさがそれぞれ等しい。
- 2組の角の大きさがそれぞれ等しい。
そして、
『相似条件が条件が成り立つ $\Longrightarrow$ 2つの三角形は相似である』
です。しかし、この逆が(もちろん)成り立ちます。
『2つの三角形が相似である $\Longrightarrow$ 相似条件が成り立つ』
2つの三角形が相似であれば相似条件で言われていることが成り立ちます。
相似でも三角比の定義の値が一致
確かめたいことは、どちらの三角形で三角比を計算しても同じ値になるかどうかです!
2つの三角形 ABC(辺のながさが $a$, $b$, $c$)と A'B'C'(辺の長さが $a'$, $b'$, $c'$) が相似であって、相似比が $k$ だとします。
特に相似条件の①の条件に注目すると『2つの相似な三角形の対応する辺の長さの比は全て等しい』が成り立ちます。
次の関係が成り立ちます。
三角形ABCで $\tan A$ を計算
三角形ABCと三角形A'B'C'のそれぞれで三角比を計算してみます。(タンジェントで計算してみます。)
三角形ABCで計算すると、そのまま $\displaystyle \tan A = \frac{b}{a}$ です。
三角形A'B'C'で $\tan A'$ を計算
次に、三角形A'B'C'で計算してみましょう。$b' = kb$, $c' = kc$ です。
どちらの三角形で計算しても、$\tan A$ も $\tan A'$ も $\displaystyle \frac{b}{c} = \frac{b'}{c'}$ という同じ値になりました。
三角形が違っても、相似である限り、三角比の定義の値は違う数値にならないことが確認できました。他の三角比のサインとコサインでも同様です。
これが、三角比の定義式が分数であることの本質です。
相似な三角形と三角比の定義の具体例
イラストを2枚作成したので、$\tan 60^{\circ} = \sqrt{3}$ であることが、相似な直角三角形に依らず定まることを確かめましょう。
1枚目のイラストは、$\tan 60^{\circ}$ を求めるための直角三角形が正三角形を半分にして出来た形であることと、定義の計算をしています。

2枚目のイラストは、大きさの違う2つの相似な三角形( $1:2$ の相似比 )があったときに、$\tan 60^{\circ}$ の値が一致することを具体的な数値で確かめています。

サインやコサインも含めて、他の三角比においても、直角三角形の大きさに依らず、三角比の値が決まることを確かめてみてください。
三角比の定義の本質を理解するQ&A
今までの内容が理解できていれば、よく挙がる疑問に答えることができます!
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三角比の公式って、なんで分数の形(複雑な形)をしているの?
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角の大きさと辺の長さを繋げるための数式としては、分数の形が最も合理的(かつシンプル)だからです。
つまり、$\sin A = a$ のような式だと、考える直角三角形に依って値がバラバラになってしまいます。しかし、辺の長さを比にすることで、相似比の違いは、約分という計算によって気にしなくてよいことになります。
三角比の定義は複雑な形をしているように見えて、角度と辺の長さを結びつける最も合理的な式なのです!角度と辺の長さが、分数という一工夫だけで結びつけられるています。見方を変えれば、非常にシンプルに表現できている式だと感じることができます。
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相似な三角形に依らず決まることは分かったけど、それって何かの役に立つの?
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めちゃくちゃ良い質問ですね。相似な三角形に関係なく三角比が決まることを解説しました。言い換えると、相似な三角形であれば、どの三角形で三角比を計算しても良い、ということです。
現実世界で現れる大きな直角三角形(木の高さを測るときとかに出くわす)の辺の長さや角度を調べるときに、もっと小さい、手のひらに収まる(相似な)三角形で計算を代用できる、ということになります。
めちゃくちゃ大きな対象であって計算が手に負えないように見えても、取り扱い可能な対象に代用できるということです。
1つ目の質問は、生徒からよく聞きます。2つ目の質問は、未だかつて生徒から出たことはありませんが、大切なことです。
三角比の定義は、角の大きさと辺の長さ(の比)を結びつける画期的な数式である。定義の値を決めるためには、直角三角形を一つ用意する必要があるが、どの(相似な)直角三角形を用意しても問題なく、同じ値が定まる。辺の長さを比(分数)としていることは複雑に見えるけれども本質である。
以上で、角の大きさと辺の長さ(の比)を結びつける三角比の定義を理解することができました。

三角比の定義の数式を導入することで、非常に大きな三角形であっても、小さいな三角形であっても、取り扱い可能な(相似な)三角形にすることで扱うことができる素晴らしさがあります。
ここまで、お読みいただき、ありがとうございます。