理学の世界と教育の世界は異なる.

理学の研究に没頭した者が, 理学と教育の世界に線引きを持たずに, 中等教育の現場に入った際に顕著に現れると予測される摩擦を2点挙げる.

著者が実際に経験した話題を基軸に伝えたい.

【まとめ】博士号を取って、中高教員になるということ【理学研究者から中高教員へのキャリアパス】

博士課程(理学)で培う知識や技能, 経験が中学や高校の教員としての素養に如何に寄与し得るのか整理したい. 博士課程に特有な経験として, 充分な研究経験と理学的思考法…

絶対に正しいこと

中高教員から「教育の世界には絶対に正しいことは無い」という主張を著者はしばしば聞く.

子どもを観る

個々の生徒によっての生徒指導のケースは全く異なるということである.

この議論は此処では行わないが, 理学の世界での仮定や真理は教育の世界には存在し得ないことを主張したい.

理学研究者は自らの議論の正当性を論理的な正当性と自然の秩序に求める.

一方で教育の世界では, 接する対象は目の前にいる子どもである.

目の前にいる子どもに対しては, 論理的妥当性や自然科学のような絶対的な解答が存在し得ないことを知っておきたい.

正しい主張ではなく適切な主張を伝える

己の主張を他者へ伝えることにしても, 理学と教育の世界では異なるように考えられる.

己の主張を論理的に伝えることは共通することだが, 主張の正しさの根拠を何処に求めるかは充分に注意する必要がある.

科学や数学的に立証される己の理論を論理的に他者へ伝達する際には, 自身が見てきた正しいとされることを根拠とする.

しかし, 教育の現場において自分の経験から得た教育の理論を他者に伝達する際に, 「自分の見てきた経験」は一般的に共通認識を得られるための「正しい根拠」とはなり得ないことに注意する必要がある.

この点に留意できなければ, 博士号教員と一般の教員の間で理解を深めることに困難が生じる可能性がある.

できることと、伝えること

理学部出身の中高教員は, その学問的性質から理解の確実性を追い求め過ぎる傾向があると感じる.

例えば, 「本質的に分かる」こと「基礎基本から積み上げること」ことに重きを置きすぎるように想像する.

これらを理解するために次の比較を考えたい.

理数系の中高教員は, 理学部と工学部, 教育学部出身と大別されるが, これら3つの学部に顕著にあるであろう性格を比較する.

工学部vs理学部

理学部と工学部出身の教員の性格を比較したい.

工学の技術的側面に注目すると「問題をいかに解くか」の工夫や技術が重要視されると想像する.

つまり, 理論を考えるより, 計算や応用ができることが重要であると考える人が多いと想像する.

「実際にできる」ための時間の確保を重視していることが多いように見受けられる.

この考え方は理学部出身の人間には歯痒い面がある(と想定する).

先述の通り, 理学部出身教員は「本質的に分かる」ことに重きを置き, 「実際にできる」ための時間の確保が疎かになる状況が少なからず存在するように感じる.

どちらが重要と言う訳ではなく, どちらも重要である.

生徒が勉強を理解するときには「わかる」と「できる」 の両輪が大切である.

分かってからできることもあれば, できてから分かることもあるだろう.

分かることに重きを置きすぎて, 頭でっかちになるのではなく, 実際に手を動かして試行錯誤をしてできるようになることも必要である.

これらのバランスを大事にしたい.

教育学部vs理学部

理学部と教育学部出身の教員の性格を比較したい.

教育学部では, 学問の内容も重視するが「どのように教えるか」という教授法を大切にすると想像する.(少なからず理学部よりは. )

つまり, 一つのことを伝える際に, 適切な教授法を選ぶことが可能であると考える.

一方で, 理学部での教授法(理学の研究者の講演や講義の方法)には「論理的に優しいことから積みあげる」ことのみが正当であると認められていることが多い(筆者の印象).

この考え方は中等教育の場では「基礎基本から積み上げる」指導法に当たると言える.

論理的に易しいことが初学者にとって易しいこととは限らない, 論理の積み重ねという伝え方のみに頼らないような教授法を大事にしたい.

以上では, 理学部出身教員の性格を他学部との比較により述べてみた.

博士号教員は, 上記に挙げた理学部特有の思考や指導法が顕著に生じる可能性が考えられる.

そういった思考や指導法にのみ固執することになると, 中等教育の場で職務を全うするためには不充分であると言わざるを得ない.

博士課程から中等教育へのキャリアパス【理学研究者から中高教員へのキャリアパス⑦】

博士号取得者が中高教員として就職し活躍することを支援している大阪教育大学の取り組みを簡単に紹介する. これまでの議論では, 博士課程での経験だけでは中学や高校の教…

博士号教員の中等教育での強み【理学研究者から中高教員へのキャリアパス⑤】

前回のブログでは, 博士号教員の努力項目を挙げるのみだった. 博士号を取得した中高教員の強みは, やはり研究(の方法の)指導である. ただし「研究活動の充分な経験が課…

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です