前回のブログでは, 博士号教員の努力項目を挙げるのみだった.

博士号を取得した中高教員の強みは, やはり研究(の方法の)指導である.

ただし「研究活動の充分な経験が課題研究の有意義な指導につながる」と述べることに留め, ここでは中学や高校の通常の授業にどのような強みが見出せるのか議論する.

授業の構成要素である教材観と指導観の点から博士号教員の強みを述べる.

最後に, 理学に精通していることから言える強みについて言及する.

【まとめ】博士号を取って、中高教員になるということ【理学研究者から中高教員へのキャリアパス】

博士課程(理学)で培う知識や技能, 経験が中学や高校の教員としての素養に如何に寄与し得るのか整理したい. 博士課程に特有な経験として, 充分な研究経験と理学的思考法…

教材観と指導観からの授業への貢献

研究活動においては, 己の研究の価値を他人と共有するために, 研究集会の講演や論文内でその意義を示し, 評価を入れた上で説明する.

博士号取得者は, この技能や経験を中学や高校の授業へ応用することができる.(応用するべきだ. )

つまり, 中学や高校での教科指導における各単元や指導事項の意義を伝えるための手順は博士課程での訓練と共通する部分が大きい, ということを主張したい.

1コマの授業を通して, もしくは単元を通しての勉強の目的や目標を立て, それを生徒に伝える必要性の大切さへの理解と実行する技能を博士号教員は持ち合わせているはずである.

前章では, 授業内の活動(ノートを取らせる時間, 考えさせる時間, 問題を解かせる時間など)を検討することが博士課程の経験のみでは不足している技能と述べた.

しかし, 教授内容の段取り作りでは強みを発揮できると考える.

  • 研究集会での講演や論文作成において, 先に結論を述べた上で理由を述べることは推奨される.
  • はじめに概略・導入・動機などを述べた上で, 仮定・結論・発展などを順番に論理的に構成立てて伝えることも推奨される.

このような発表の技能や思考の順番は中学や高校の授業でも同等に重視されることであり, 博士号教員であれば適切に実施することが可能な経験を持つと考える.

これらを踏まえ, 授業1コマの内容の段取り作りを生徒のレベルに合わせて構成すればよい.

以上のことは教科書の内容をそのまま伝える授業ではなく, 教員が伝えたいことを伝える授業の必要条件であるとも考えられる.

問題解決型授業と探究型学習

中学や高校での授業においては, 問題解決型授業や探究型学習は重要視されてきている.

授業(学問)における問題解決は, まさしく研究である.

研究者としての問題解決型思考や探究心を基軸に, 研究的発想を中学や高校の教科指導へ還元し, 生徒が問題解決を通して探究し学べる授業を設計して欲しい.

「なぜ」と思わせる科学的精神を培うことや「(再)発見」の喜びを与えることも大切な指導である.

しかし, 科学的精神や(再)発見を生徒に指導することを持続可能にするためには, 学ぶための方法を生徒へ指導する必要が有る.

ここで挙げた「学ぶための方法」とは, 授業内容を理解することや教科書を解読できるようになるという 0 から 1 を得るようなものではない.

与えられた勉強を実行するための学ぶ方法ではない.

自らの興味のある所へより深化して学ぶ, 多くの 1 を組み合わせ 1 を作るような, 探究(追究)するための「学ぶための方法」である.

追究のための学ぶ方法を指導するには, 指導者が追究する経験を充分に積んでいることが必要である.

以上の議題を深めるためには, SSH校での指導経験で培われた課題研究の議論が充分に参考になるだろう.

さらに, 課題研究指導において, 研究経験のない一般の教員と博士号取得者の探究指導の違いを何かしら比較した資料があれば, 博士課程の経験の効能の有無を観察できると考える.

しかし, 課題研究指導と博士課程での経験との対比を議論することは本稿(本ブログ)の趣旨ではないため, これ以上踏み込まない.

科学や数学を伝えること

理学への精通から得られる中等教育への強みを議論する.

これは理学博士である博士号教員としての役割と言えるかもしれない.

科学や数学という学問自体が何であるかを伝えることは理学博士の役割(強み)である.

科学や数学が何かという問いに答えることは難しい.

そして, 一義的な解答は無いだろう.

しかし, 学問自体への絶対的な解答ではなくとも, 研究経験から培って感じる解答を伝えることが生きた学問として生徒に伝わると考える.

さらに, 科学哲学や数学教育学なる専門書を少し勉強すれば, 学問として共通に了解されていることの全体像を体験と共に実感して掴むことができるだろう.

同時に科学史や数学史の教授も可能であると考える.

博士号教員に限ったことではないが,

  • 科学や数学とは何か
  • 科学史や数学史

が通常の授業の話題の中に含まれていることが非常に有意義である.

こういった話題を1コマの授業として教授しても結構だが, 通常の授業での指導の合間に科学や数学的精神を含めて伝えることが生きた学問として生徒の心に残るだろう.

博士号教員は研究経験を顧みれば, 理学的精神を教科単元指導の合間に伝えることが出来る充分な言葉と説得力を所有していると考える.

教科書の話題を詳しく伝えるため(面白く)には, その事実を発見や証明した人物やその伝説をストーリー構成で伝えることは有効である.

教科書で紹介される科学者や数学者による言葉・発想・智恵には研究を通して理解された言葉も多い.

それらの言葉の字列を読み伝えるだけではなく, 研究を追体験し, 「己の血と肉となって納得した言葉」として伝えることができれば生徒の疑似経験として記憶に残るだろう.

先人たちの知恵と思想, 天才の所業を生き生きと伝えることが博士号教員が率先して行うべき大切な役割と考える.

科学史や数学史から先人の経験を学び, 生きる力を養成する指導を率先して行うべきである役割を持つ者は博士号教員である.

博士号教員は, 先人たちの知恵や言葉の偉大さを生徒たちに伝えるという大きな役割も果たし得る(役割を率先して担うべきだ).

また, 著者の印象であるが, 現代文の授業の指導において科学に関する文章を読解するときに, 科学(史)への理解が全く無いまま, そ の文章の論理だけを追いかけているだけの場合があるように感じている.

生徒の科学(史)への理解を促すためには, 文系の現代文の教員よりも理数系の教員が伝えられることが多くあるのではないだろうか.

最後になるが, 博士課程での研究経験は, 「なぜ勉強するのか」「なぜ科学・数学を勉強するのか」に対する解答を生徒に伝えるための充分な材料を含んでいる.

勉強する意義の裏付けを持ち, それを説得力を持って生徒に伝えることを博士号教員だからこそ積極的に担っていきたい.

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