
博士号取得者が中高教員として就職し活躍することを支援している大阪教育大学の取り組みを簡単に紹介する.
これまでの議論では, 博士課程での経験だけでは中学や高校の教育現場に対する理解は充分でないことを述べた.
前章までの議論を踏まえ博士号取得者が中高教員として活躍することを目指すために必要な支援をまとめる.
大阪教育大学の高度理系教員養成プログラム
大阪教育大学の高度理系教員養成プログラムについて紹介する.
このプログラムは, 教員養成系の教育学部のみからなる大阪教育大学と教育委員会, そして研究重点大学の京都大学大学院, 大阪大学大学院, 奈良先端科学技術大学院大学が連携し, 博士号取得者や博士課程の学生が中高教員として就職する支援を行うプログラムである(平成 29 年度現在).
このプログラムには, 次の内容が含まれている:
- 教員免許状取得に必要な単位の取得支援
- 教科や教職に関するセミナーを通した学校教員として必要な視野を広げること
- 学校インターンシップによる中学や高校の教育現場の理解
- 国内外の先進的な理数教育指導実践校の視察
博士人材が中高教員になることの理解を促し, 研究で得た専門性を中等教育の現場へ応用することを意図したキャリアパス支援となっている.
必要なキャリアパス制度
これまでの議論の総括として, 博士号取得者が中高教員として就職する際(のキャリアパス)に重要なことは, 自己分析と中等教育の理解であると主張する.
しかし, 博士号取得者や博士課程の学生が中学や高校の教育現場を具体的に知り, その情報を得ることは難しい.
実際に現場で活躍している教員(特に博士号教員であれば良いが)の話を直接聞くことのできる機会や中等教育の現場を見学する機会を設けることが大切である.
博士号教員同士のネットワークが構築されていれば, 中高教員へのキャリアパスに興味を持った博士人材が現職中高教員から具体的な話を聞ける機会を持つことができる.
「自分も昔は生徒であったので中等教育についてはだいたい想像がつく」ことに安心して, 中等教育の内実の理解への関心が薄い人も少なくはないが, 博士号取得者が中等教育について知るべき側面が多くあることは共有したい.
中高教員として新たに身につけるべきことには教職の専門性が大きい.
特に生徒理解が重要であると考える.
なぜならば, 研究で扱う対象と子どもという対象は全く異なるためである.
たくさんの中学生や高校生と接し, どのように教員として生徒と接するべきかなどを学ぶこと, またその研修の場を用意することも必要ではないだろうか.
この上で自己分析を行いつつ, 己の中等教育内での位置付けを捉えていくことが教員を志望する博士人材にとって必要であることだと結論する.
そのために, 先述の大阪教育大学の高度理系教員養成プログラムのような博士人材の中等教育へのキャリアパスを支援するプログラムが一層充実することが期待される.